ルーションの2つのシャルドネを比べて感じたこと

それなりに研究熱心な方だと自任しているのですが、長年ワインを飲み続けているとどこか惰性に流されるところが出てきます。それではいけないと思い、日々注意深くワインと向き合おうと思いまして。

Cadireta, IGP Cotes Catalanes 2022 Jean Marc Lafage
カディレッタ 2022 ジャン・マルク・ラファージュ

La Colline Aux Fossiles Chardonnay, IGP Cotes Catalanes 2021 Jean Marc Lafage
ラ・コリーヌ・オー・フォッシル・シャルドネ 2021 ジャン・マルク・ラファージュ




南仏ルーションのシャルドネ2種の比較です。醸造コンサルタントとして活躍していたJ.M.ラファージュは、実家のドメーヌを継いで今は自らのワインづくりに専念しています。白とロゼワイン醸造は、モンペリエ大学でともに醸造学を学んだ妻のエリアンヌさんが担当しているということです。

ルーションの赤はやはりカリニャン(カリニェナ)やグルナッシュ(ガルナッチャ)が優れていて、カベルネやメルロの入り込む余地はないように思うのですが、白に関してはシャルドネに結構面白いものがあると思います。誤解のないように申しますが、私自身はシャルドネという品種があまり好きではないのです。ただ、どんな土地でもそれなりの品質のものが出来るという点で、カベルネやメルロといった赤用の国際品種よりも汎用性が高く、ルーションの土地にもそれなりにフィットしていると感じる、ということです。
 2つのワインはともに約30%を新樽で発酵・熟成させ、残り約70%をステンレスタンクで発酵・熟成させています。輸入元がつけている価格はカディレッタが2,530円、コリーヌ・オー・フォッシルが2,750円で、前者は9月中旬収穫でヴィオニエの澱を一緒に発酵させるということです。後者は8月末にナイトハーヴェスト、ラベルにも描かれている化石が見つかる古い土壌で育ったシャルドネだということです。
 両者を比べてみると、ともに南のシャルドネらしい熟した果実味が豊かなワインですが、ディテイルにはそれぞれの個性が現れていて面白くはあります。ただ、輸入元が明らかにしているこのワインのデータ的な部分と、ワインの個性とが必ずしも結びつきません。それは半ばもどかしいことでもあり、だからワインは面白いなあと思えるところでもあります。
 価格が安いカディレッタの方が、味わいに厚みがあるもののシンプルな印象。ヴィオニエの澱とともに発酵させることで、それがどの程度ワインの風味に影響を与えるかはよく分かりませんが、熟した果実のニュアンスの中に、ヴィオニエらしさがあるといえばある、逆にいえばそう言われなければ気付かないレベルです。3か月間シュル・リーとバトナージュを行うということで、若い現在はやや澱臭さがあるものの構造の大きさも感じられます。もちろん濃いだけではなくて、それなりに酸もあってバランスがよく取れているので上手につくられた美味しいワインではあるのですが、この価格帯のシャルドネというのはそれこそ世界中の色んなところでつくられたものが鎬を削っている状態なので、是非ともこれを扱いたいかというと、私は微妙だと感じました。
 一方のコリーヌ・オー・フォッシルは、如何に暖かい地域とはいえ収穫時期が8月末。ハングタイムが短すぎないかと思うのですが、味わいは非常にしっかりとしていて、果実と酸のバランスもよく、複雑さも感じられます。カディレッタと比べて葡萄の質の高さや風味の熟度の高さを感じさせます。MLFは8%のみとのことで、活き活きとした酸が全体を引き締めているということかも知れません。ただ、公表されているデータからは、畑が「化石が見つかる古い土壌」ということしか分からず、それが海からどのくらい離れているのかとか、標高がどれくらいなのかということは分かりません。8月に収穫できるということは、すごく標高が高い山中で、といったことはないのではないかと思うのですが、海に近く標高が低い畑からこういう複雑味を感じさせるワインが出来るんだろうか?という疑問が頭をよぎります。
 …という話の展開は、自分がいかにも頭でワインを飲んでいる証拠だなあと思います。頭で飲むのが悪いことだとは思いませんが、生産者や輸入元が公開する情報というのは都合よく編集されていることがほとんどなので、2つのワインを比較する際に、本当に欲しいデータは明かされていない、ということもよくあるわけです。
 というわけで、今後ここではしっかりと頭使いながらワインを飲んで感じたこと、分かったこと、疑問に思ったことを綴っていきたいと思います。